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家庭教師の男は、あたしの体を床に押しつけると口を口でふさぎ、そして舌を入れてきた。驚く。逃げる舌を絡め取られる。唾液。気持ち悪い。吐きそうになった。顔が涙だか唾液だかわからないくらいぐちゃぐちゃになって、やっと男はあたしを離す。怖い。逃げたい。恐い。嫌だ。 「君が悪いんだよ」 男はそうずっと呟いていた。あたしの中に、欲望を注ぎこんだ後も。
2.9 / 2004,06,13
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支度を終えて、鏡の前で一回ターン。姉と違ってすらりとした曲線は、少しだけ自慢――そう、姉の恋人に、モーションをかけられるくらい。あたしの体はとても綺麗。
2.8 / 2004,06,13
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地下鉄の、地上に出る瞬間、光に包まれる感覚が好き。
2.7 / 2004,06,13
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夢の中の小鳥のように。
2.6 / 2004,06,12
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すれ違う。繋がらない。コール音だけが響く部屋の中。あなたは一体、どこにいるの?
2.5 / 2004,06,12
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「俺はどうすれは良いの。どうすれば許してくれるの。……どうすれば、俺のものになってくれるの」 外。雪。白。あぁ、烏が。風。うねり。うねりが。窓。光。闇の中。
2.4 / 2004,06,11
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教室の片隅で、Hくんはあたしの右手を握った。「冷たい」そう呟くと、今度はぎゅっと体を寄せてきた。あたしは少しだけ震えたけれど、Hくんの鼓動が聞こえてきたから、今度は少しだけ抱きしめた。「抱いて良い?」なぜ、なんて聞き返せない。こうなることを望んでいたのか、それとも望んではいなかったのか。あたしはそのどちらの答えも出せぬまま、曖昧に手を握り替えした。 放課後の視聴覚室は、黒く重いカーテンに囲まれて、まるで天蓋付きのベッドの様だった。鍵がかかる音がして、Hくんはあたしの顔に手を寄せた。「目が、綺麗だ」驚く。「嘘、だってあたしの目、小さい」そう小さく言ったあたしを、Hくんはやんわりと抱きしめた。吐息がかかる位置で、彼は笑ったようだった。目を瞑る。唇が額に、鼻に、そして唇へと辿り着き、そして耳の縁をなぞった。あたしは少しだけ身動ぐ。内股が、わなないた気がした。
2.3 / 2004,06,10
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あたしは誰かを(あるいは何かを)否定してばかりいる。
2.2 / 2004,06,10
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小気味よい、鋏の音が聞こえる。シャキンシャキン、ぱらぱらと髪が落ちる。ああ、こんな風にあの人への想いも、切ってしまえたら良いのに。
2.1 / 2004,06,09
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Hくんはとても性急にあたしを求める。扉が閉まるか閉まらないかという速さで、彼はあたしのスカートをまくし上げた。ごつごつした手が、あたしの体を撫で回すのを、目を瞑って感じる。彼の柔らかいくせに無理矢理立てた髪に指を通すと、ほのかにシャンプーの香りがした。あたしはその瞬間、遠い昔の、ある一瞬を思い出す。セピア色に染まった、もう決して戻りたく無い、あの記憶を。
2.0 / 2004,06,08
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蛍光灯の心許ない光では、あなたの顔を思い浮かべることがうまくできない。
1.9 / 2004,06,08
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Kさんは、部屋に入るなりあたしを抱きしめた。何歳年上なのだろう。少しだけ脂臭い。Kさんはあたしの名前を知らない。Kさん。Kさん。お父さんの匂いがする。 彼があたしに入ってきた瞬間、それまで押さえていた声が出てしまった。彼はひどくゆっくりとした動作で、挿入を繰り返す。あぁ、ひどく熱い。彼の少しだけ柔らかいものは、あたしの中で粘性の音を立てながら張りつめていく。快楽。仄暗い部屋で、共有するという、共犯意識。あたしが先に果てたのか、それとも彼が先だったのか。気付けば彼は気怠げにあたしの横に体を横たえた。「良かった。とても」 呟いた言葉は、あたしに向けられたのか、それとも彼の意識の底に向けられたのか。
1.8 / 2004,06,08
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好きだ、とか愛してる、とかそういう陳腐な言葉以外で、気持ちを伝えるようになったのは、いつくらいからだろう。思わせぶり。そう、弄ぶことが楽しいわけではなかったけれど、いざとなればいくらでも逃げられる言葉で。上目遣い、甘えた口調。駆け引きと言うにはあまりにも幼稚な、恋愛遊戯。 (好きだとか愛してるとか、そう言えば、あの人は一番の人にしか言わないって言ってた。だからあたしは、未だにあの人から好きだとか愛してるとか、言われたことがない。)
1.7 / 2004,06,07
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あの人がいない四日間、あの人のことをたくさん考えていた。 「君は一人でいるとき、きっと誰のことも思い浮かべないんだろうね」 前にハカセにそう言われたことがある。あたしは寂しがり屋だけど、誰かに属すことを嫌っている。彼はそう言いたいみたいだった。違うよ。本当は寂しがり屋じゃないの。一人が好きなわけでもないの。ただね、あの人と居なければ、寂しい感覚は誰と居ても同じだから。一人でいても、他の人といても、同じように寂しいから。だから誰にも属さないの。 ハカセがあたしの中に入ってくる感覚が、これは現実だと教えている。寂しいから抱き合う? 違う。そうじゃない。違うの。あたしが今この場所にいるって、あたし自身に教えるために。あの人のいない世界でも、あたしは生きているんだって。きっと今この場所で生きていることに、あたしが一番疑いを持ってる。
1.6 / 2004,06,07
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現実はいつもひどくストイックで、一人で立っていられる場所はひどく少ない。童話のようにいつでもめでたしめでたしでは終わらない物語が溢れて、誰の助けも必要としない少女がとても多い。 助けてあげようなんて、とても馬鹿にしているわ。あたしは誰の助けも求めていないのに、勝手にたすけてあげようだなんて。ねぇ。あたしをちゃんと見て? あなたの支え無しでも、立っていられるのよ。
1.5 / 2004,06,07
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起こしてはくれない王子様を、いつまでも待てるなら、お姫様になれる?
1.4 / 2004,06,06
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白み始める空は、やっぱり大嫌いだと思う。一人きりだということを、否応なく突きつけられるから? 今から出かけなくてはならない。そう言ったあの人の顔を思い出す。どこへ? そう訪ねたかったあたしは、だけどあの人に抱かれながら頷くだけ。四日目の朝に、また来るよ。そう言い残してあの人はいなくなった。 これから四日間、貝になって眠る。
1.3 / 2004,06,03
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あの人からの連絡を待ち続ける、という不可思議な感情を持て余しながら、そういえばこの頃昔なじみの人がメールを良くくれると思う。あたしの目を好きだと言ったHくんも、ハカセも、そしてKさんも。やっぱりみんな、何かに取り憑かれたかのように「君に会いたい」と言う。 (やっぱりわからない。会いたいのはあたし、という体なのだと思う。)
1.2 / 2004,06,03
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こっちはまだ、2日の夜なのよ。(犬が盛んに吠えてる。何をそんなに脅えているのかしら?)
1.1 / 2004,06,03
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自分の顔で、一番気に入っているのは右目。大きくはないし、睫毛も短いけれど、アイラインをひいてマスカラをつけると、魅力的だと思う。 いつだったか、ある男があたしの目を好きだと言った。コンプレックス。「嘘、だってあたしの目、小さい」 そんなの、関係無いって彼は少し掠れた声で答えた。光る。彼の目。目を伏せた。「ありがとう」 言えなかったあたしを、彼はまだ幼さの残る腕で抱きしめて、そうして。
1.0 / 2004,06,03
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ハカセと名乗ったその男は、いつも飄々として、人の分析をするのが好きみたいだった。「君は寂しくてこんなことをしているんだろう? 心が誰かを求めて泣いてるんだ。だから僕がこうすれば君は寂しくなくなるはずさ」 勝手に決めないで欲しい。あたしは間違っても、寂しさを埋めるためにこんなことをしているわけではないのに。馬鹿にしてる。馬鹿に。……馬鹿にされたい? 「なぁ、したいんだろう? 寂しくて苦しいから、僕を呼び出したんだろう?」 (思い出した。彼は分析が好きで、その上自信満々だった。) 抱きしめられた腕は、ただ熱いだけだった。
0.9 / 2004,06,02
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わたしが男と寝るのは、寂しさを埋めるためだ。 そんな言葉を、誰かが言っていた。(もしかしたら、読んだのかもしれない) あたしは違う。そんな理由で男と寝たことはない。じゃぁどんな理由で? そう聞かれても、明確な答えなど無いに等しいのだけれど。 戸惑う。あたしは寂しさを押しつけられても、どうしてあげることもできない。だって、あたしが受け入れられるのは、あの人だけだから。
0.8 / 2004,06,02
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今日も、あの人からの連絡は無いまま、眠りにつかなくてはいけない。この部屋は広くて白くて、どこかKさんを思い出させる。(そういえば、Kさんからは連絡があった。近いうちに会いましょう、だって。会いたいのは、あたし? それとも) 受話器を取って、また置いて。もう何度も。カチャカチャ、耳障りな音。ナンバーを押すほどの勇気は無い。だけど、受話器を取るだけの勇気はある。半端な勇気は、きっと自分を傷つけるためにあるんだわ。 丸まって眠る。あの人の温もりを忘れてしまわぬように。
0.7 / 2004,06,02
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どうしてみんな、メールを信用できるんだろう。送った瞬間、闇に吸い込まれちゃって、見えなくなっちゃうのに。 (待ってる間の、落ち着かない気持ちが、一番嫌い。)
0.6 / 2004,06,02
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お願いだから、メールの返事を送って欲しい。そうしたらこっちからアクション起こせるのに。沈黙で返されたって、あたしは超能力者じゃないから、何が言いたいのかはわからないもの。 (勇気がないのを、言い訳してるだけ?)
0.5 / 2004,06,02
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そこに強固な繋がりなど、無いことは知ってる。不健全な世界。夢見がちに求められる、繋がりを求める手に、今日も答えることが出来ないまま。
0.4 / 2004,06,02
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目が醒めたら、やたら明るい部屋だった。ああ、そうだ。ここはもう○○なんだ。知らない天井を見ながら、ぽつりと思う。ぽつり。寂しい? いいえ、ただの強がりなのかもしれない。 隣に人の温もりはないから、きっとあたしは一人で寝ていたんだろう。起きあがると、ぬめりとしたシーツが体に巻き付いて、少しだけ気持ち悪い。 やけに明るい。白いカーテン。だから、朝の光は嫌いなのに。
0.3 / 2004,06,01
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ここの空は日本のそれとは違う形をしているみたい。日本の空に、あんな3Dみたいな雲は、入道雲くらいしか見たことない。少なくともあたしが覚えている限り、ふにゃっとした平坦な雲しか知らない。もっとも、場所によって空が違うなんて、非科学的すぎて、誰も理解してくれないだろうけど。 (メールが来ないと、どうしてこう、どうでも良いことばかり考えてしまうんだろう。メールは一種の麻薬なのかもしれない。)
0.2 / 2004,06,01
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